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原作:梶原一騎 漫画:影丸譲也 1977年「少年マガジン」
「空手バカ一代」第17巻 (講談社漫画文庫) 128頁
極真会の添野義二が、タイでムエタイの実力派「闇のファイター」たちと戦う話。その最初に戦う相手がこのモンク・ガロップという選手で、耳が聞こえない。エキシビションで、コーラ瓶を四本ひとまとめに割ってしまう、すさまじい蹴りを見せる。
試合では、即戦即決をねらった添野がうまく先手を取って、一分以内で倒してしまう。
このマンガが出たとき、ムエタイに耳は聞こえないが強い選手がいることを知り、感心するとともに心強く思った聴障者は多い。
本気で信じてしまった人には悪いが、残念ながら「闇のファイター」はフィクションだ。添野がタイに行ったのは本当だが、闇のファイターは実在しない。
実は梶原一騎が原作を書いた作品には、実話を元にしたドキュメンタリーとされているものでも、フィクションがかなり多い。今では、格闘技ファンの間では周知の事実になっている。この「空手バカ一代」でもそうで、例えば、ニューヨークで極真空手と対立した香港カンフーの李青鵬は実在しない。
では全部ウソ話なのかというと、そうでもないのだからややこしい。適当に本当の話を織り込んでいるのだ。
まあ、どこまでがウソでどこまでがホントなのかは、そのほうの専門家の検証にまかせよう。とりあえずは、実話を元にしたとされる作品でも、そのまま信じないほうがいい。かなりの誇張や創作が入っていると見るべきだ。
では、他に耳の聞こえない格闘技者が出てくるマンガはあるのか?
残念ながら、あまりない。唯一、心当たりのあるのは「ベアマーダー流介」一九八八年(少年サンデー)しかない。主人公に格闘技を教えた教官が、実は耳が聞こえなかった、というものだ。出番はあまり多くなかった。
範囲を広げて、時代物の武芸者も対象に入れるなら、こちらは二つある。どちらも最近の作品だ。
うーん、時代劇では盲目の剣士、というのが昔からのパターンで、この影響で格闘技ものでも盲目の格闘者はいるんだが……。
こうしてみると、時代劇で聴障の武芸者を出すのは意外に新しいものだとわかってくる。