「遥かなる甲子園」の周辺

ドキュメンタリー

[「遥かなる甲子園」表紙] [「【続】遥かなる甲子園」表紙] マンガ「遥かなる甲子園」の原作となった戸部良也「遥かなる甲子園」(双葉社・1987年発行)は、実在の北城ろう学校野球部を書いたドキュメンタリーだ。マンガと比べると、かなり地味な内容の本となっている。そして「【続】遥かなる甲子園」(双葉社・1990年発行)という、その後に社会に出た球児たちの様子を追った続編もある。マンガ「遥かなる甲子園」で話題になったあとに出た本だ。

[「廃校の夏」表紙]

実は、北城ろう学校野球部を書いたドキュメンタリーがもう一つある。小野卓司「廃校の夏」(講談社・1989年発行)。
実話を追っているのだから話の流れはだいたい同じなのだが、細かいところではけっこう違いがある。例えば、野球部員たちの手話名(名前の手話表現)を一人一人きちんと紹介しているし、大庭監督がピッチングマシンの操作ミスで指一本を切断した話は「遥かなる甲子園」には出ていない。
山本おさむ「遥かなる甲子園」の連載開始は1988年、終了は1990年10月なので、「廃校の夏」はマンガ連載中に出た本だということになる。あとから出ただけあって、戸部良也「遥かなる甲子園」よりも事実経過の描写にリアリティがある。戸部良也の本を知った上で、独自の取材を重ねた成果だろう。

残念ながら、どちらの本ももう売っていない。本のオンラインショップでチェックしたが、購入できなくなっていた。ただし、山本おさむ「遥かなる甲子園」はまだ購入できる。地道に売れ続けているロングセラーになっているようだ。
山本おさむ「遥かなる甲子園」は、原作の戸部良也「遥かなる甲子園」とはだいぶ違う。北城ろう学校野球部の実話をベースにはしているが、それとは独立したフィクションとなっており、ストーリーもオリジナルのものとなっている。独自の取材も重ねている。例えば、第二巻に出てくる「うむまあ()」の話は、他の二冊には出ていない。
みずから手話を勉強しろう問題にも知識が深い。山本おさむは手話も大変上手で、蕨市の手話サークル会長もやったことがある。

これから本を読もうというかたには、やはり山本おさむ「遥かなる甲子園」がお薦めだ。三冊の中で一番ろう者を描写できていると思うし、やはり感動できる傑作なのだから。事実関係を調べたいという人は別だが、そういう人はマンガだけですますようなことはしないだろう。

映画・テレビドラマ・演劇

「遥かなる甲子園」は映画・テレビドラマ・演劇にもなっている。

関西芸術座の劇「遥かなる甲子園」は現在も全国で巡演されているそうだが、僕は見たことがない。

映画「遥かなる甲子園」(大映)は1990年上映で、大澤豊 監督・三浦友和 主演。1990年度文化庁優秀映画作品賞を受賞している。なかなかいい映画だったが、マンガ「遥かなる甲子園」を超えてはいないと思う。映画しか見ていないかたは、この機会にマンガの方も読んでほしい。

テレビドラマ「遥かなる甲子園」は斉藤由貴がろう学校教師として主演しており、前後編二回に分けて放送された長編ドラマだったけど、あまり出来が良くなかったと記憶している。細かいことは覚えていないので、情報を得るためにウェブを検索してみたけど、ヒットしない。どうも、このテレビドラマは「なかった」ことになってるらしい。

まあ、事情は察しがつく。著作権の問題があったからだ。
このテレビドラマは、原作が『戸部良也「遥かなる甲子園」』となっていた。が、実際にはストーリーは山本おさむのものだったのだ。もちろん山本おさむはテレビ局に抗議した。その後の経緯がどうなったのかは、僕は知らない。おそらくは示談で決着がついているだろうと思うが。
こういう事情だから、テレビドラマ「遥かなる甲子園」が二度と放映されることはないだろう。

このテレビドラマをビデオテープに録画した人は、きっといるはず。将来は「遥かなる甲子園」関連の貴重な資料となるだろうと思うので、きちんと保存しておいてほしい。ビデオテープの磁気は時間の経過とともに劣化するので、そろそろ再生できるかどうか危ない時期に来ているはずだ。この機会に、DVD などにメディアコンバートしておくとなおいいだろう。DVD は磁気や電気の影響を受けない上に、ポリカーボネート樹脂でできてるので非常に長持ちする。何十年も持つはずだ。

なお、映画「遥かなる甲子園」のほうは、こういう著作権の問題はクリアされている。きちんと

原作:
小野 卓司「廃校の夏」(講談社刊)、山本 おさむ「遥かなる甲子園」(WEEKLY漫画アクション 連載)、戸部 良也「遥かなる甲子園」(双葉社刊)

と三作ともクレジットしてある。

余談・「遙か」と「遥か」

「はるか」にはパソコンで出せる漢字としては「遥か」と「遙か」の二つがある。「遥」は「遙」の俗字という。本の題名としては、俗字の方の「遥」が使われている。しかし、この二つの字は見た目にもよく似ておりまぎらわしい。日本語入力IMEでも、まだ学習していない初期は「遙か」の方が先に出るようになっているので、なおさら間違いやすい。事実、ウェブ検索してみても間違っている方の「遙かなる甲子園」でかなりヒットするのだ。
というわけで、あえてこの話題を入れることにした。こうしておけば、間違った方の「遙かなる甲子園」で検索してしまった人でも、このページで引っかかってくれるわけだ。

ウェブ検索でこのページを見つけたかた、検索に使った文字はどちらだったでしょうか。