宇宙開発史の偉人

C(コンスタンチン)・E・ツィオルコフスキー (1857-1935)
Konstantin Eduradovich Tsiolkovskii
ロシアの科学者で、「宇宙旅行の父」と呼ばれる。耳が聞こえないために学校にも行けず、ほとんど独学で研究した。そこから独創的な研究が次々に生まれ、ロケット工学の根幹をなす基本的な理論を網羅していた。あまりにも独創的なゆえに認められず不遇だったが、晩年にようやく認められるようになった。

作品紹介

「栄光なき天才たち」〔宇宙を夢みた男たち〕

[栄光なき天才たち「ひとりぼっちでした」と語る図] ヤングジャンプ・コミックス「栄光なき天才たち」(集英社)第2巻 16頁

作・伊藤知義 画・森田信吾 (集英社)

世に知られざる業績を残した人物たちを扱ったシリーズで、この巻では宇宙ロケット開発史をテーマとしている。
短編であるが、人とのコミュニケーションとしてもっぱら筆談をたよりにしていた様が描かれている。

「まんがサイエンス」〔ロケットの作り方教えます〕

[まんがサイエンス「わしや耳が悪くてのォー」とギャグをかます図] ノーラコミックス「まんがサイエンス」(学習研究社)第2巻 52頁

あさりよしとお (学習研究社)

「まんがサイエンス」は学習誌に掲載されたマンガではあるが、単なる学習マンガではなくマンガとしても読んで楽しめる。そのためか、児童図書としてでなく一般のマンガ本として売られている。
この巻で主人公たちにロケットの作り方を教えるロケット学者として登場、耳が聞こえないためのコミュニケーションのズレが軽妙なボケとなっている。

評論

このツィオルコフスキーの名前を知らない人は多いと思う。実際、世界の偉人伝のような書物には取り上げられていない。しかし、宇宙開発史の書物には必ず出てくる人物である。

最近なぜか宇宙開発を扱ったマンガが多くなった。内心、このツィオルコフスキーを取り上げるマンガが出てくるのではないかと期待していたのだが、未だに出ていない。結局、ツィオルコフスキーを扱ったマンガはこの二編にとどまっている。

〔宇宙を夢みた男たち〕の巻では、ツィオルコフスキーが最初に登場。ロケットそのものはツィオルコフスキー以前からあったが、宇宙ロケットをはっきり意識して研究を進めていたのはツィオルコフスキーが最初になる。実際に宇宙ロケットそのものを作ったわけではないのだが、理論的な研究の正しさは後の宇宙ロケット開発で証明される。それゆえに「宇宙ロケットの父」と称される事になる。

「栄光なき天才たち」は、そのタイトルが示すとおり、本来はライバルとの競争に敗れたり業績をあげながらも世に知られないままに終わってしまった、歴史上の人物に焦点を当てたシリーズだった。有名な人物を取り上げた場合でも、あまり知られていないネガティブな面を取り上げていた。
野口英世などがそうで、日本の伝記にあるような障害を乗り越えた立派な人物として描かれていない。むしろだらしない性格の人物として描かれている。業績の元となったのは職人的な実験技術にあり、黄熱病の研究ではその手法が通用しなかったために成果をあげられなかったことがわかる。
どちらかというと、大人向きの伝記シリーズだったと言えよう。

人気が出て予想外にシリーズが長続きしたために、取り上げるのが必ずしも不遇な人物ばかりとも限らなくなった。
その典型が宇宙ロケット開発史を扱った〔宇宙を夢みた男たち〕の巻で、ウェルナー・フォン・ブラウンという宇宙開発史上最大の立身出世の大人物が登場する。ナチスのV2号から米国の月ロケット・アポロまで作ってしまったロケット学者だ。この巻で扱っているページ数も、フォン・ブラウンが一番多い。この巻の半分以上のページに登場する。
とはいえ、フォン・ブラウン以前のロケット開発者は、不遇な立場にあった人が多いのも確かだ。

[栄光なき天才たち ツィオルコフスキーの肖像] ヤングジャンプ・コミックス「栄光なき天才たち」(集英社)第8巻 256頁

そして最後近くに再びツィオルコフスキーの肖像が出る。
旧ソヴィエト連邦のバイコヌール宇宙基地でアポロの月着陸のニュースを見る人たちの後ろに。ツィオルコフスキーからフォン・ブラウンまでの歴史の流れが圧縮されたシーンだ。

世界の偉人伝に取り上げられるような人物で、聴覚障害を持った者は他にもいるが、エジソンやベートーヴェンの様に、たいていは軽度の障害にとどまるようだ。ヘレン・ケラーは別途取り上げる
ツィオルコフスキーのような例はまれと言えるだろう。