医学マンガの聴覚障害者・補遺

「医学マンガの聴覚障害者」をまとめた後で、もれている作品があったのに気づいたので、これを追加する。

作品紹介

「ナースステーション」

[看護婦、手話で話しかけるシーン] ジャンプコミックスデラックス「ナースステーション」第3巻 221ページ

原作:高山よしのり 漫画:田中つかさ

第20話「沈黙の会話(サイレントコミュニケーション)
月刊スーパージャンプ 1989年11月号 (集英社) 掲載

ニュースキャスター香坂翔子が喉頭ガンで入院、手術で声帯を摘出しなければならず、声を失うことになる。生きがいをなくして自殺未遂をおこす。
ろうあの少女患者、安西由香が入院しており、行き違いがあって翔子は由香におわびしようとするが、由香は受け受けつけない。主人公の看護婦は、この機会に手話の勉強を勧める。翔子ははじめ抵抗するが、そのうちにやる気になってくる。
病気の予後が思わしくないために退院が延びてしまった由香は、絶望して雨の中を貯水塔に逃げる。翔子は覚えたばかりの手話を使ってこの前の行き違いのおわびをし、仲直りする。
これをきっかけに、翔子も前向きに生きるようになる。

評論

別ページで扱った「救急ハート治療室」「ダークエンジェル」と同じく、病院に入院した患者が中心となっているマンガだ。
ただし、この「ナースステーション」はこの二作品と比べてストーリーにあまり無理のない、ちゃんとした内容になっている。「救急ハート治療室」は父の行動・娘の行動に不自然さがあるし、「ダークエンジェル」はバイオリンをやる難聴の少年・失聴したにもかかわらず再起する指揮者、という無理な設定がある。その点、このマンガではきちんと設定を考えている。

普通なら、ニュースキャスターにとってろうあ者とは接点がない。そこで由香を、翔子の子供時代を書いた本の愛読者としている。これならストーリーに無理がなく、読者としても納得して読めるわけだ。
へたな作者なら、平気で由香をニュースキャスターのフアンとしてしまうところだろう。そして、後で「耳が聞こえないのにどうしてテレビのニュースキャスターの話が理解できるんだ?」と、矛盾点をつっこまれることになる。

無理な設定をしている「救急ハート治療室」「ダークエンジェル」が聴覚障害者を描いたマンガとしては駄作になってるのに対し、「ナースステーション」は佳作となっていると思う。

[ニュースの手話通訳を提案するシーン] ジャンプコミックスデラックス「ナースステーション」第3巻 237ページ

このマンガの終わりの方で、看護婦がテレビ担当者に提案する。
「聴障者だってリアルタイムでニュースが知りたいんですよ」
「なのにどうして今まで手話のニュース番組ってなかったのかしら?」
「スポットニュースでやってみませんか」

今では、NHK教育テレビで手話ニュースが、NHKテレビ・日本テレビでニュースに聴障者用字幕が入っている。
しかし、このマンガが出た当時は、まだそういうものがなかった。そして、今でもほとんどの番組に聴障者用字幕がない。欧米では、字幕がついている方があたりまえになっているにもかかわらず、だ。ずいぶん長い間、テレビ番組に字幕をつけるよう運動をしているにもかかわらず、この程度の成果しかあがっていない。
壁はいまだに厚いのが、現実だ。