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神戸の大学に通う、美術科の学生の
で、出てくる登場人物は大学の学友がメインだが、近所の住人・弟の恋人も出てくるし、車イスのイラストレータのファンでもある。そんなこんなで、つきあいのある人たちの中には韓国人・中国人もいるし、ファッションモデルにイラストレータとヨコモジ職業もいるし、部落出身もオカマもいるし、車イスだけでなくいろいろな障害者もいる。
……人付き合いが苦手ゆーわりには、付き合い広いやん!!
「神戸在住」第6巻(講談社) 10頁 第47話「夏の終わりの黄昏は。」
この多彩な登場人物の中に、聴覚障害者もいるわけで、これが初めて登場するシーン。車イスのイラストレータ、日和洋次さんに頼まれた荷物を取りに入った店で、店番してるのがこの早川さん。耳が聞こえないため、桂が声をかけているのになかなか気づかない。コミュニケーションにとまどうが、荷物を受け取るとともに不二家のミルキーをオマケにもらう。
「神戸在住」第6巻(講談社) 105頁 第52話「日和さんちでのこと。」
日和さんにお呼ばれしてホームパーティに参加……うぁ、音楽がからんでるカットやん。
イカン、「手話コーラスは意外とマンガに出てこない」の中の「音楽がテーマにからんでくる聴覚障害者マンガのリスト」に、これを入れておくのを忘れてた。修正修正、と……ホイ、手直ししたぞ。
早川さんは、体にリズムマシンをつけて踊るのだそうで、このカットでブレイクダンスを見せる。
そして第62話「日和さんとの日々。」で日和さんが亡くなる話。単行本では第七巻になる。ここで早坂さんが最後に出てくる。
絵柄や内容で誤解する人が多そうなので断っておくが、少女マンガではない。掲載誌「アフタヌーン」の読者層で言えば、青年マンガになる。そもそも作者は男だ。女性っぽいペンネームではあるが、そう誤解されることをねらったんでしょうね。
ずいぶんたくさんの人を出しているのに、シンプルな絵柄のわりに一人一人の顔がきちんと描き分けられている。それぞれの性格まで見えてくる。絵がうまいんだと思う。早川さんの場合は、かわいくてやんちゃな所のある少年として描かれている。ちなみに、早川さんの本職は電気工だそうな。
ここに出しているカットの絵を見てもわかると思うが、カットの枠線がフリーハンドで描いてある。そしてスクリーントーンを使わない。この作者の場合は、他のマンガ家ならスクリーントーンぺたりですます所を、丁寧にフリーハンドの横線で埋めている。意外に手がかかっている絵なのだ。これが、独自の暖かみのある絵柄になっている。
このマンガの中では、聴覚障害者の早川さんは脇役にすぎない。それでも、ちゃんとキャラクターが立っている。こういうマンガは、実は珍しい。
ダンスを楽しむシーンを入れているあたり、ただ者じゃないと思う。理解のない人だと、聴覚障害者に音楽はムリとはなから決めつけるだろうし、ある程度知ってはいても手話コーラスなぞでお茶を濁してしまうだろう。ホントにこういう事をしている聴覚障害者もいるのだ。
脇役として聴覚障害者が出ているだけなら、他のマンガにけっこうある。しかし日常で暮らしている生活者として出て来て、かつ聴覚障害者としての存在感があるマンガとなると、ちょっと他には思い当たらない。普通の人としての聴覚障害者を描かないのが普通である今のマンガの状況を考えると、このマンガは珍しい存在だといえる。
余談だが、僕には本を買うとブックカバーを一度ははがしてみるクセがある。そのクセがあるおかげで、本棚にある「修羅の刻」第四巻だけは表紙がウェスタン風になってたりする。しかしながらこの「神戸在住」に限っては、カバーをはがさないことを推奨する。イメージがぶち壊されても、知らんぞ。
[記:2005年5月7日]
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