マンガの中の聴覚障害者 ↑トップページへ
ストーリーは、主人公の女の子が自転車で男にぶつかる、という少女マンガお約束のボーイ・ミーツ・ガールで始まる。
カットは、「プリズムの声」(小学館) 9頁
男は耳が聞こえないために、自転車のベルの音に気づかずよけなかったために、ぶつかってしまったわけだ。耳が聞こえないことに気づかずに、思いっきり文句をつけているのがこのカット。これが主人公のリン。文句をつけられている相手が、この後交際することになる涼。
リンはアナウンサー志望で、アナウンサー養成学校に通っている。涼はパン屋の職人。
第一話で、リンは涼とつきあうために手話を始める。涼は以前に失恋した経験があるのを知っている兄が、二人の交際を認めまいとするが、二人はこれを乗り越える。
第二話は、アナウンサー志望のリンだが、採用試験に落ち続ける。最後に大阪で採用試験を受けるが、涼と別れられない自分に気づいてみずから不採用となる。そして手話通訳士を目指すことになる。
カットは、「プリズムの声」(小学館) 109頁
このカットが第三話。二人は結婚することになるが、リンの両親への説得と涼の母との復縁が話の中心となる。このカットはまだ親を説得する前の話で、もし反対されたら「駆け落ちしょー」と言っているわけだ。
この三作の他にサイドストーリーとして「プリズムの青」がある。これは涼の兄がメインの話で、涼とリンは少しだけしか顔を出していない。この作品を収録している単行本「カニパンの手紙」(小学館)は、今では入手しにくくなっている。兄にとっての耳の聞こえない弟への気持ちが描かれている作品なので、ファンのかたならおさえておきたいだろうが、特にファンでもない人には、無理にはお勧めしない。
実は、僕のサイトへの問い合わせが一番多かった作品が、この「プリズムの声」だ。
その大部分は、「『プリズムの声』がまだ入っていない」という情報提供。「作者別マンガ一覧表」にはちゃんと入っているんだが、そこまでいちいちチェックしないのね。
まあそのおかげで、この作品が少女マンガ愛読者の間ではよく知られていることがわかった。確かに悪くない作品だと思う。しかしこれよりも「君の手がささやいている」「きみの声 ぼくの指」という、もっとオススメしたいマンガを優先したために、この「プリズムの声」があとまわしになった次第だ。
単行本で作者の大野潤子は「手話を習いだして一年とちょい」と書かれている。一通り勉強した上で描いているのだ。だから、このマンガでの聴覚障害者についての描写はちゃんとしている。オススメできる。
まあ、聴覚障害者との恋愛テーマのマンガであり、聴覚障害者問題を深く掘り下げているわけではない。だから、人によっては物足りなさを感じるだろうと思う。それでも、以前はこういうマンガなんて皆無だったのだから、時代の進歩を十分に感じることができる。
第二話で、「強い」という手話表現を「腕相撲」と読むボケを二回かましている。手話講習会で、実際にこういうボケをかましているんだろうな。手話がかなりうまくなった人の描いたマンガには案外出てこないギャグで、本当にリアルタイムで手話を勉強していることがうかがえる。
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