顔文字の起源 (^_^)

僕が日本で最初に顔文字を作ってから、二十年たった。まあ、僕が最初の考案者だということは知る人ぞ知る、なのだが、ほとんどの人は知らない。パソコン通信時代の顔文字についてまとめた針ヶ谷さんのウェブサイトがあったのだが、いつの間にかなくなっていた。というわけで、今のうちに記録を残しておきたいと思いたち、こんなページを作ってみた。

もっとも、針ヶ谷さんがまとめた文書は 顔文字の歴史 に保存されている。もはや、歴史的文書と言えるだろう。なお、この中にある僕のメールアドレスは、もう使われなくなっているので出しても届かない、念の為。[針谷喜久雄さんのサイト消失]

日本式の顔文字の起源

顔文字には大きく分けて、日本式と欧米式がある。(^_^) が日本式で、:-) が欧米式、それぞれ起源が異なっている。欧米式のは、顔が横倒しになっているのが特徴だ。

まず、日本式の顔文字 (^_^) がどのように発生したのかを説明しよう。

最初に掲示板に書かれた顔文字

1986年6月20日 に 若林泰志 が当時のパソコン通信「アスキーネット」の電子掲示板で使用したのが最初。その時に書いた文章が手元に残っていたので、その部分を抜き出して示す。この文章が書かれたのは障害者関連の電子掲示板で、僕がその掲示板の Sigop (掲示板管理者) だった。

余談だが、障害者をテーマとした電子掲示板が作られたのは、アスキーネットが最初だ。僕が申請して設置してもらった。

人によっては、文字化けして読めないかも知れない。その場合は、ウェブブラウザの文字エンコーディング設定を「シフトJIS」に設定してほしい。そうすれば、読めるようになるはず。

当時のパソコンはまだ 8bit CPU のものが主流で、漢字交じりの日本語テキストを表示できるものは少なかった。そのため、ここに示した文書は当時主流だったカタカナ文字、いわゆる「半角カタカナ」が使われている。パソコンによって文字化けが起きるのは、そのため。本当は、当時使われていたカタカナ文字は全然「半角サイズ」じゃなかったので、「半角カタカナ」という呼称には抵抗があるんだが。当時は単に「カナ文字」と呼んでいて、誰も「半角カタカナ」とは言っていなかった。

(^_^) は文章の末尾に入っている。この時は、サインとして使っていた。現在の電子メールでも、署名(Signature)として自分の名前やハンドルを入れる設定にしている人は多いと思う。当時の掲示板でも、文末に自分の名前かハンドルを入れるスタイルだった。当初は、文中に自分の気持ちを表現するような使い方ではなかった。

実は、これを見て「顔だ」と気づく人は少なかった。(^_^;
文字だけで顔に見える表現がつくれるかなと思い立ち、さまざまな文字の組み合わせを試してみて、コレなら笑顔だとすぐにわかるだろう、というパターンを選び出したのだが。文字だけで顔の表情を作る、という発想が一般的になってない当時では、なかなか顔だとは気づいてくれないのだった。

普及のきっかけはチャットから

アスキーネットではチャットもできた。
そこで、自分のチャット用ハンドルに顔文字を仕込んだ。こんな感じ。「ワカン」は実際にはカナ文字だった。

[ワカン_(^_^)]

ある日、チャットに入ってみたら、対談中のハンドルリストに顔文字がずらーっと出てきたのにはビックリした。それぞれ顔文字のパターンを変えていた。僕のハンドルを見て真似しだし、チャットで顔文字が流行ってしまったのだった。

気を取り直して、知り合いのいるチャンネルに入り、しばらく会話していたら、他の顔文字ハンドルの人が入ってきていわく、

「アーッ、ボクノマネシテイルーッ」

がくっ、あのなー、マネしてるのはそっちの方だろうが。

「コッチガ ガンソ ナノッ」
「エ ソウナノ」

まあ、こうしてチャットから顔文字が広まり、他のパソコン通信システムにも普及していった。それとともに、文中に入れて気持ちを表現する使い方に変わってきた。さまざまな気持ちを表現するために、いろんな顔文字のバリエーションが生まれていった。

欧米式のスマイリーフェースの起源

日本式より古い欧米式

欧米式のスマイリーフェース(顔文字) :-) は、日本式よりも起源が古い。
1982年9月19日 に Scott E Fahlman が電子掲示板に提案したのが最初らしい。Fahlman は米国 IBM の研究者で、当時はカーネギーメロン大学に在籍していた。最近になって磁気テープの中から過去のスマイリーフェースが掘り出され、この事が明らかになった。

なお、僕はこの欧米式のスマイリーフェースは知らなかった。僕が日本式の顔文字を作った後で、スマイリーフェースを知った。だから、スマイリーフェースの影響を受けて顔文字を作ったわけではない。

顔文字について書かれた文書の中には「欧米式のスマイリーフェースから日本式の顔文字が生まれた」と書かれているものがあるが、誤りだ。それぞれ独自に発生したものだ。

今では、欧米でも日本式顔文字が使われるようになっている。
ローラ・リメイの「HTML 入門」という本を読んで、(^_^) が文中に使われているのを見てビックリすると共に、欧米でも使われているんだなと嬉しく思ったものだ。なおこの本は WWW 黎明期に出たコンピュータ専門書であり、けっして初心者向きの入門書ではない。今では古典である。

ちょっと余談。
このローラ本にはすでに「here 症候群」が書かれている。「ここ」「こちら」、英文では「here」という文字列にリンクをつけるやり方を揶揄したもので、リンク先に何があるのかの情報を出してないため、不適切なリンクの張り方である。アクセシビリティの点でも推奨できないやり方なのだ。かなり前から、こういう問題のあるリンクの使い方をしている人がいる、ということなんだな。

スマイリーフェースはなぜあの形になったのか?

日本式は縦に見ることができる形で、欧米式は横倒しになっている。なぜこんな違いが出たのかについては、それぞれの文化の違いが背景にあると見ることができる。
これについてはいろんな説が出ている。この中で一番説得力があるのは、これだろう。

[スマイルバッジ] 1970年代に、全世界で流行したブリキ製のバッジがあった。それが、このスマイルバッジだ。35歳以上の人なら、ほとんどの人は知っているはずだ。スマイリーフェース :-) は、これをベースにしていることがすぐにわかるだろう。

確かに、こういうものを ASCII 文字だけで表現するなら、横倒しにするしかない。

スマイリーフェースの他の説

スマイリーフェースがあの形になった理由として、スマイルバッジ以外にも説が出ている。

マンガ文化については、顔文字が普及した後でさまざまなバリエーションが生まれた説明にはなると思う。しかし、最初に誕生したときの縦向き表現の理由には、ちょっと弱いと思うなぁ。むしろ、スマイリーフェースの :-) の方がマンガ的なのだから。

顔文字はろう文化の反映か?

日本式の顔文字が聴覚障害者の手で作られたことについて、ろう者の誇りだと考える向きがあるらしい。

まあ、影響がないとは言わない。いくらか影響はされているだろうとは思う。しかし一方で、僕が作らなくても誰かが作っただろうとも思うのだ。実際、欧米式と日本式は、それぞれ独立して発生していたのだから。単に、遅いか早いかの違いに過ぎないのではないか、と。そういうわけで「ろう文化の反映」は言い過ぎではないかと……


[記:2006年7月23日]